■ゆめかい/夢喰い/夢魔、夢の旅人について
生きとし生けるものはすべて夢を見る。
例えば人や動物、虫や小さきもの、草木に花なんかも。
美しい夢も、恐ろしい夢も、幸せな夢も、様々に。
そして、夢の世界というのは世界の垣根すら超えてしまうような世界。
多重に並行した世界の垣根を超え、遠い遠い世界まで夢の中を渡り歩くことができるのが「夢の旅人」たち。
しかし「夢の旅人」とかいう呼称はぜんぜんメジャーではなく、それぞれの種族か職業名の方が主流なので注意が必要。
ちなみに語る際は「色んな世界に行ける」みたいなこと書いてるけど、実際は無制限に往来できるわけではなく、ある程度被りのない世界しか行けないようになっている。
分岐点いくつ以上前に分かれた世界、とかそんな感じ。
隣接するごく似たような世界には行くことができない。
近すぎるとどうしても混線するからね。少し間隔をあけておかないといけないんだね。
□夢魔について
だいたい一般的なイメージ通り。
夢とか性的なエネルギーから生気を得て力とする種族のこと。
ただこれはかなりアバウトな分類で、中には性的な事はしません!って種族もいる。
生気を得ないと生きていけないタイプの種族も居れば、別に絶対必要ってわけじゃないタイプの種族も居る。
多少の差はあるけどたいていみんな夢を覗いたり夢に干渉したりする能力がある。
「夢売り」とか「ゆめかい」とかしてる場合は「夢魔」よりそっちで呼ばれることが多い。
□夢売りについて
他人の夢を買うか貰うか奪うかして、また別の者に売ることを生業とした者のこと。
夢を入手する際に必ず「買う」者は、その真摯な姿勢から「夢買い」として区別される。
(必ず奪うような者は「夢奪り」とか「夢盗り」とか呼ばれるが蔑称なので表記が揺れる。音はだいたいユメトリ)
夢をいくつか組み合わせて配合する者も居るけれど、夢を「飼い育てる」ことができる者は、その才から「夢飼い」として区別される。
(例えば、野菜を買ってそのまま売るとか、野菜を調理して売るとかは比較的普通にできることだけど、野菜を買ってきて育てて品種改良して売るとかは普通じゃできないよね、っていう話)
入手方法にこだわるかこだわらないか、その後の扱いの巧みさによって呼称が微妙に変わる。
「夢買い」を「夢売り」と呼んでも間違いではないけど、若干失礼にあたる。
「夢売り」を「夢買い」と呼ぶのは間違い。
かすりは夢を買い、飼い育てる者なので「ゆめかい」とひらがな表記になる。
一応夢売り系の中では最高にあたる呼称で、敬意を持って呼ばれるような俗称。
そして生気を奪うような行為を全く必要としない純粋な夢売り系の種族なので、彼は夢魔とは呼ばれない。
ちなみに國京の場合厳密には夢売りより夢飼いが正解だけど、彼の場合は「人形屋」としての括りに居ることを望んでいるのであまり夢飼いとは呼ばれない。
更に、生きる上で生気をある程度必要とする種族のため、彼はしばしば夢魔とも呼ばれる。
□夢喰いについて
夢喰いとは、夢を喰うことで生きるためのエネルギーを得る存在のこと。
夢喰いが何故生まれるのか、どうやって生まれるのかは不明。
ただ、俗説では「夢がねじれて」生まれると言われている。
夢魔も夢からエネルギーを得るが、夢魔は「夢を媒介として"生気"を得る」のに対し、夢喰いは「夢そのもの」を喰らってエネルギーとしている違いがある。
□夢喰いが忌まれる理由
夢とはとても尊いもので、それを扱う夢売りも尊い存在とされている。
(それゆえに真摯な姿勢が求められ称される職業でもある)
そんな尊い夢を喰らってしまう夢喰いは、自然と「良くない存在」に姿を変える。
夢を喰う行為そのものが、身体に「穢れ」とも言えるような「良くないモノ」を生み溜めてしまう。
夢を扱う存在、夢の旅人でありながらも生身に近い肉体を持っている夢売りや夢魔とは違い、夢喰いの本質が生身から遠い理由も、その「良くないモノ」が影響している。
生身から遠い、というのは、例えば肌の色が肌(皮膚)色にできないことや、食べ物を摂取し消化することができないこと等。
存在そのものが「良くない」性質をもつということ、尊い夢を喰らう存在であることがまず夢喰いが忌まれる一つ目の理由。
夢喰いの精神や性質は、喰らう夢によって左右される。
悪夢を喰らえば喰らうほど、その夢が悪夢であればあるほど、夢喰いは理性的ではなくなり、強力な力を持つようになる。
強大な力とそれをコントロールできない理性から、悪夢ばかり喰らった夢喰いは暴走しがちで、
暴走した夢喰いは夢の世界を荒らし始めてしまい、より力の強い夢売りや夢魔によって討伐されることになる。
そして、「幸福な夢」は最も尊い性質を持っている。
そのため夢売りの中でも安易に奪ったり受け取ったり、安値で買ったりしてはならないものとされているが、夢喰いにとって「幸福な夢」は非常に中毒性が高い。
一度でも「幸福な夢」を喰らった夢喰いは、「幸福な夢」を強く強く求めるようになる。(「幸福中毒」と呼ばれる)
しかし、その尊い性質から、「幸福な夢」を喰らえば喰らうほどその身は穢れてしまう。
「幸福な夢」を喰らった夢喰いは、より深く身体に「良くないモノ」を溜め込み、また「幸福な夢」を求め狡猾になる。
悪夢を喰らった夢喰いも、幸福な夢を喰らった夢喰いも、どちらの姿も夢の世界にとって毒であり、忌むべき存在となる。
そんな性質が、夢喰いが忌まれる二つ目の理由。
□要歌と音澄、傘花の夢について
傘花は毎晩毎晩悪夢に魘されているけれど、その質がとても優しいものであることをかすりは知っていた。
そして、そんな傘花の「優しい悪夢」であれば、ともすれば夢喰いを素直に育てられるのではないかと考えていた。
そんな時に、生まれてからこれといったひどい悪夢も「幸福な夢」も喰らったことがない幼い夢喰いを見つけ、持ち帰る。
「素直で利口な夢喰いを育てる」というその実験は、結論から言うと、大成功だった。
その夢喰いは、理性を保ちながら優しく素直に、それでいて強力に育った。
それが要歌。
そしてかすりのもう一つの試みが、「夢を喰わない夢喰いを育てる」こと。
夢喰い同士で、生きるためのエネルギーを受け渡すことが可能なことを、かすりは知っていた。
(ほとんどの夢喰いはそんなことしないが、幸福中毒になった狡猾な夢喰いは稀に行っている)
夢喰いの身体に溜まる「良くないモノ」は、尊い夢を喰らう行為そのものから生まれる。
なら、夢を直接喰らわずエネルギーのみ受け取れば、生身に近付けるのでは?という仮説。
そして、その試みのため捕まえられたのが音澄。
かすりと出会った時点で音澄は生まれたてで、ほとんど夢を喰らったことがないような状態だった。
そして現在、この試みも大成功と呼べるほどの出来になっている。
音澄はほとんど穢れがなく、生身に近い肉体を有している。
ただ、得ているエネルギーの総量の少なさから、まだまだ独立した動きはできていない。
傘花の見る「優しい悪夢」とは、
「生前の名前を優しく呼ばれる」とか
「生前の家族に自分の死を悲しまれる」とか
「生前の世界すべてが自分のことを忘れる」とか
「"傘花"の誕生日を祝われる」とか、あるいは
「恐ろしい怪物が嫌いな奴を殺していく」とか
「恐ろしい怪物に優しく抱きとめられる」とか、
まだまだ色々な種類はあるけれど、そんな感じの夢。
元の世界に未練があるわけではないけれど、それでも元の彼女と彼女の世界の優しさと、それを裏切った罪悪感やら言葉にしがたい感情でいっぱいで、後悔はしていないけれどそれでも毎晩矛盾した夢を見続けている、みたいな。
要歌は一応傘花以外の夢を喰うことは禁止されていて、音澄は直接夢を喰うことは禁止されている。
しかし要歌については絶対ではなく、必要であれば他の夢を喰うこともある。
ただし、「幸福な夢」だけは一度でも喰うと危険なため何があっても喰うことは禁じられている。